企業再生の見極め

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企業再生を考える上で一番留意すべきは、再生プロセスに入るタイミングをしっかり見極めることであります。しかしながら、企業を経営する当事者の場合、なかなかその適切なタイミングを見極められない事が多いようです。ともすれば最後の最後まで粘って、結局立ち行かなくなり、再生の日の目を見ず破産に移行することが多く見られます。

何ごとも早期実行が望ましいのは言うまでもありません、何をいつからどのように始めたら良いか、という正しい答えはどこにもないし、誰も適切に教えてくれることはありません。経営者自らが現実と予見されるリスクを察知し、必要なアクションプランを実施しなければならないといえます。もっとも、正しい答えはないといいつつも、企業再生の専門家と早期に相談を開始することで、最悪のシナリオに陥る確率は相当程度回避されると考えられます。

現実は甘くない

企業経営の要として、資金繰りを滞りなく実現する必然性はいうまでもありません。中小企業を始めとする未公開企業であれば、基本は銀行を中心とする金融機関からの融資継続が大前提となります。また、IPO(株式公開)等を目論むベンチャー企業であれば、いわゆるベンチャーキャピタル(VC)からの資金を想定することも可能でしょう。

しかしながら、窮境に陥った企業が銀行やVC等に駆け込んでも、新たな資金を当てにすることは基本的に困難といわざるを得ません。企業経営者が自身の事業や技術、製品などを評価する感覚と比べると、金融機関はよりシビアな見方をしています。したがって、幾ら将来性がある、もうすぐこの技術が実現するなどの”たられば”を評価し、そこに資金付けを行うことは、窮境が見えた段階ではまずないといってよいといえます。

彼ら金融機関は何を見るかというと、将来性とかアップサイドの利益を見るのではなく、リスクシナリオにおける回収可能性、保全可能性を見て当該融資、あるいは投資が可能かを判断するものです。要するに、企業の窮境タイミングを見切るのは企業経営者の何倍も早いということであります。従って、資金繰りを何とかするの期待値に対する現実はまったく甘くないと考える必要があります。

事業価値の棚卸し

事業価値の有無が再生の将来性を判別する重要な要素となります。ひと言で「事業価値」というと簡単に聞こえますが、この価値の有無の見極めは意外に複雑なものであります。企業規模の大小に拘わらず、自らの事業価値がどこにあるか、どの程度あるかを正確に把握できていない企業は案外多いものです。

ここでいうところの事業価値は、いろいろな切り口がありますが、要するに「事業セグメントとして区分される単位において測定される営業利益(あるいはEBITDA)の水準、資産価値の程度」と考えるべきでしょう。個々の企業ごとに、何が適切な事業セグメントかは異なるから一律な定義は難しでしょう。例えば、製品ごとだったり、事業ごとだったり、あるいは地域ごとだったりと様々なセグメンテーションが考えられます。

更にいうと、単に財務会計的な手法でセグメント別の利益が把握されれば良いというものではありません。企業再生の局面においては、「継続的な利益(recurring profit)」が、再生後の将来においても実現しうるものであるかを見極める必要があります。従って、たとえ過去の利益であっても、その計算過程における売上、原価、また販管費等の項目に存在する「臨時的なもの」、「異常値」が含まれるなら、それらを取り除いた水準に引き直して実態を探らなければなりません。

また、当該セグメントに帰属させるべき資産・負債は幾らであるかの把握も必要になります。単純に、売上や利益などの基準で配分するというものではなく、再生の過程で担保処分によって所有権が喪失する対象を控除するとか、事業売却可能な物理的単位で切り分けるとか、再生実行後の所有権保全や事業スペース確保などの現実的な視点で把握しないといけません。この点も、「本社の資産価値はどのように帰属させるのか」、「遊休設備はどうするのか」など様々な考慮が必要になるから、そう単純にはいかかないものです。

結局、事業価値の棚卸をする目的は何かというと、「再生に資する事業や製品だけを純粋に切り出して」、「その他の価値阻害(破壊)要素を排除する」企業再生特有の手続きを前倒しで実施するに過ぎないのです。

何だか非常に大がかりな話に聞こえますが、これは企業規模の大小に限らず実施すべき作業ともいえます。そもそも、金融機関が企業再生を支援する意図は、倒産によって債権(貸金)/出資金が全損になるならば、再生実現によって幾ばくかの資金回収が図れるほうがましだ、という純粋な経済合理性判断に基づくものです。ですから、再生に資する事業において将来価値が見極められない場合には、金融支援としても破産による債権回収を目指すことに為らざるを得なくなります。

資金繰り見込の棚卸し

窮境企業における資金繰り管理が重要なのはいうまでもありません。しかしながら、この段階で考えるべきは、「非常事態発生後、少なくとも6ヶ月の資金繰りを確保できるか」というものであります。最近では少なくなっていますが、手形の遣り繰りで資金を回している企業であれば、信用不安情報が外部に漏れた瞬間から通常の資金繰り手続きは維持できなくなるでしょう。また、仕入先等からも、支払条件の見直しなどが申し入れられたりすることも想定されるなど、資金繰り事情が改善することは全く期待できず、むしろ悪化する一方となります。

その他、銀行の短期資金についても、従前は借り換え等の対応が当たり前のようになされていたことも、追加担保の要求をされたり、借り換え額を減らされたりと、ますます条件が厳しくなってきます。

このように、最悪シナリオに陥った場合、果たして自己資金(プラス売掛金等の回収)にて今後どこまで生き延びされるかを棚卸しする必要があります。一般論ではありますが、企業再生手続きには最短でも6ヶ月程度は必要になるから、その間を生き延びるためにも資金確保の目途を付けるのは非常に重要になるといえます。

企業再生の手法により確保できる資金の目途は異なりますが、非常事態認識後は資金流出によるマイナスを出来る限り最小限に抑えねばなりません。①給与、②仕入代金、③一般経費、④公租公課、⑤借入金元利払い、などの重要性をランク付けして支出を抑える工夫を行い、手持ち資金の維持に努める必要があります。もちろん、こういったシミュレーションは、再生手続きに入る前に実施しておく必要があります。

金融機関の支援見込み

企業再生というのは、そもそも銀行等の債権者や出資者などに迷惑を掛けるものなので、「何とかしてくれるだろう」といった再生支援の期待を持つことはできません。唯一、支援確保において筋を通せるのは、「破産した場合よりも再生した方がメリットがある」点を説得できる場合に限るでしょう。金融機関における情緒的な対応は一切なく、判断基準は客観的な経済合理性(再生価値>破産配当)のみであると考えなければいけません。

要するに、ここでいう金融機関の支援見込とは、「迷惑は掛けるが、最小限の迷惑に止めるからそのシナリオを承認して欲しい」と合理的に説得出来るか否かに完全に依拠します。さらには、金融機関/債権者側の論理に立った再生シナリオでなければ承認されることはありません。そのため、前述の事業価値棚卸しに従った再生計画の策定は非常に重要になります。

私的再生、法的再生の違いにより説得すべき債権者等の数や対象は異なりますが、一般的に銀行債権者の金額的重要性は高いことが多く、彼らの意向を無視した再生計画の同意や承認は難しいといえます。加えて、手っ取り早く担保処分により回収を図ろうとする動きも、メインバンク以外のその他の銀行によっては見られるケースも多くあります。そういった事情などから、金融債権者全員の足並みを揃えることは難しいと考えるべきでしょう。それゆえ、最低限、いずれの金融債権者の対しても、「再生価値>破産配当」の合理性を証明できる情報開示、説明が必要になってくるのは間違いありません。

専門家チームの組成

ここでいう専門家チームとは、企業再生手続き全般に豊富な経験やノウハウを有するプロフェッショナルを指します。大事なのは、全体把握とシナリオ分析をきちんと出来る司令塔を確保することでしょう。

確かに、法的整理の局面に入ると、裁判所と向き合うことになりますから弁護士の関与は必須となります。しかしながら、これまで説明したとおり、事業価値の棚卸、資金繰りの棚卸などは法律分野ではなく、純粋な事業分野であります。入口の段階で、いつ何をどのように実施するかの整理と見極めが必要なわけで、そのためのプロフェッショナルが早い段階で関与することが望ましいのです。もちろん、そういった司令塔的役割を果たす弁護士もいるでしょうし、会計士でも構いません。あるいは、再生コンサルタントという立場でも十分機能すると考えられます。

いずれにしても、プロフェッショナルの関与は、その後のシナリオ展開を成功させるためにも必須であり、導入において生じるコストは十分回収しうるだけの将来メリット(再生実現=大幅債務カット実現、スポンサー支援確保など)をもたらすものと考えて良いといえます。

こういった専門家チーム組成においては、数ヶ月の再生プロジェクトと位置づけて、Kick-offミーティング以降、ほぼ毎週、企業当事者を交えミーティングを開催し、現状把握、問題点の抽出、今後のアクションプランなどを詰めていくケースが多いです。もちろん、企業規模や事業の複雑性などにより組成すべきチームは異なりますが、再生専門の弁護士と会計士によるチーム編成が、再生支援&実行という観点においては、業務守備範囲と実行の効率性という面での最小限単位として最適と考えられます。

アクションプラン

既に上記において説明している通り、企業再生の進め方にマジックはありません。事業価値分析と資金繰り分析による再生計画の策定と、「再生価値>破産配当」の図式を客観的、合理的に説明する情報開示と債権者への説得に尽きるといえます。

ただし、企業再生を指向した瞬間から、いわば非常事態宣言を発するものであり、通常では想定し得ない自体が次々に起こることを覚悟しなければなりません。通常時では考えられない資金繰り対応が求められるとか、たとえ従業員であっても再生手続きの事実を知らせず秘密裏に事業価値分析を行う必要もあります。その他、スポンサー支援による再生を目論み、複数スポンサー候補先と交渉する場合を想定しても、最終合意局面で「ノー」といわれ途方に暮れることも十分想定されます。このため、企業再生においては、常に複数シナリオを保持しつつ最適を目指し走り続けるものにならざるを得ないのです。そのため、プロ・チームとの頻繁なミーティングで現況を確認しつつ、アクションプランを練り直す作業は欠かせないものです。資金繰りが詰まるなどした場合には、どこかのタイミングにおいて「破産」手続きに移行する決断が求められる場合もありますから、日々の緊張感は相当高くならざるを得ません。

このように、想定外の事態が日常茶飯事のごとくわき起こるのが企業再生手続きと捉え、常にアップデートしたアクションプランを持ちながら進む必要があるとえいます。



このように、企業再生の見極めとは、まず①入口段階をいつにするかということ、②再生に資する手法をどのように選択するかということ、③再生手続き中に生じる様々な不測の事態どう乗り切るか、といった多面的な意味合いを持っているのです。

企業再生とは、単なる法律面の手続き論の話ではなく、財務的な分析論の話でもなく、それら要素をひとつにまとめた複合的視点で取り組むことにより最適な解が求められると考えられるものです。

以上

 

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