会社法における株式評価の近時の流れ

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会社法の近代化により、M&A取引や組織再編行為の自由度は以前と比べかなり高まりましたが、同時に、そういった取引の多様性や複雑性が増したことで(少数)株主の権利保護に関する取扱も徐々に変化をしています。とりわけ、取引当事者(一般的には主要株主、あるいは会社そのものと第三者などのケースが多い)に対する、反対株主の権利保護における株式評価の考え方は、従前の会社法上の考え方に比較しより緻密さを増していますので、以下、簡単に整理をいたします。

いわゆる権利保護の規定には、行為そのものを差し止めるものであったり、取引当事者の責任を追及するものもありますが、株主側の挙証責任の難しさや、損害認定の複雑さ、あるいは損害回復や補償に要する時間的問題、等々を考えると、「反対株主による買取り請求権」を行使して、被った損害に相当する経済的マイナスを会社側に負担させることで出口を目指すのがもっとも一般的な対応になるでしょう。

この「買取り請求権」は会社法上の権利でありますから、上場会社、非上場会社を問わず株主として権利行使可能となるものですが、やはり、上場会社のような市場株価が存在する状況において、①市場株価、②帳簿価額、③当事者の合意する取引価額、といった異なる客観的数値が併存する際に、紛争事案として問題になるケースが多いようです。

会社法における株式等の買取り請求が求められるケース

株式保有者 場面 条文 評価基準
反対株主 株式に関する特別の定めなどに係る定款変更 117Ⅱ 公正な価格
事業譲渡等 470Ⅱ
吸収合併、吸収分割、株式交換(消滅会社等) 786Ⅱ
吸収合併、吸収分割、株式交換(存続会社等) 798Ⅱ
新設合併等 807Ⅱ
反対新株予約権者 株式に関する特別の定めなどに係る定款変更 119Ⅱ 公正な価格
組織変更 778Ⅱ
吸収合併、吸収分割、株式交換(消滅会社等) 788Ⅱ
新設合併等 809Ⅱ
譲渡制限株式保有者 譲渡等承認請求を受けた会社が承認しない旨の決議をしたとき 144Ⅱ 譲渡等承認請求時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮
全部取得条項付種類株主 全部取得条項付種類株式の全部の取得 172Ⅱ 明確基準無し
株主の相続人 相続その他一般承継により取得された株式の売渡請求 177Ⅱ 譲渡等承認請求時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮
単元未満株主 単元未満株主による買取請求 193Ⅱ
単元未満株主による売渡請求 194Ⅳ
 

「公正な価格」に関する考え方


以前の商法における「公正な価格」とは、「決議ガナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナ価格」としていましたが、会社法改正により、単に「公正な価格」へと変更され、ここにおいて、当該組織再編行為等が行われなかった場合の客観的価値を指すものから、当該組織再編行為等により生じるシナジー効果を、取引当事者とその他株主とで公平に分配することを意識した価格を指すものへと変化しています。

なお、「公正な価格」を争ったこれまでの判例に見られる共通した考え方は、以下の通りです。
1) 算定基準日における客観的価値に加え、強制的取得により失われる今後の株価上昇に対する期待を評価した価額が考慮される
2) 公正な価格の具体的算定は、具体的事実関係を前提に裁判所の合理的裁量に委ねられる
3) 市場価格が異常値(=企業の客観的価値を反映していないと思われる特別の事情)でない限り、直近の一定期間における市場価格を基礎とする

ただし、常にシナジー効果が生じるような組織再編行為等ばかりとは限りません。例えば、親子会社間における合併のように、非独立当事者間で行う組織再編行為等は明確なシナジー効果を認めることが難しいケースもあります。逆に、MBO(マネジメント・バイアウト)においては非独立当事者間であるものの、シナジー効果があるとの一般的コンセンサスがあるようです。従って、シナジー効果の認定も含め(判例的には認定に関する明確な基準がまだない状況です)、上記2)にある通り具体的事実関係を前提とした裁判所の合理的裁量によって「公正な価格」の構成が求められることになります。

 

DCF法に対する注目


一般的に、上場会社における株価評価の局面では、市場株価に加えてDCF法による価値算定も重視することになります。市場株価には、翌期あるいは翌々期までの業績期待を織り込んでいると言われます。他方、DCF法においては更に長期の事業予測を反映した将来価値に対するプレミアムが加味されているため、市場株価<DCF評価という価値算定結果になることが多いです。また、第三者による買収であったりMBOなどにおいては、当該買収者が想定する事業シナジーを反映した価値が織り込まれたり、あるいは、経営支配権取得による価値向上施策実現の期待権(コントロールプレミアム)を加味したりすることから、DCF法における価値測定がシナジー効果を把握するための重要な役割を果たしています。

こういった側面からも、裁判所においてもこのDCF法による価値測定をより重視するようになったと思われます。しかしながら、DCF法においては、多くの仮定や前提条件を負荷した金融モデルにて算術的に価値が把握されますから、絶対的な客観性を保証するものではありません。そのため、裁判所としても、DCF法における計算プロセス等の中身について細かい評価を行うのではなく、DCF法を含む全体の算定プロセスが会社法上の手続きに照らし問題ないか、また、適切な第三者(専門家)の関与のもと公平性や透明性を確保したプロセスが進行したか、などの検証をすることでDCF法評価の妥当性を担保しているようです。

いずれにしても、株式評価においては、DCF法のみならずいわゆる金融モデルに依拠した価値測定を行う重要性は増加するものと思われます。

以上

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