財務アドバイザーの機能と特徴について

財務アドバイザー(Financial advisor = FA)という言葉は、M&A取引が一般化しつつある現在においてはかなり頻繁に使われていると思われます。しかしながら、その職種に関する正確な定義というものは存在しておらず、また、何らかの公的資格にて能力担保がなされているものでもありません。このため、「アドバイザー」とか「FA」などと呼称するプロフェッショナルのM&Aにおける機能ですとか、その特徴などについて簡単に整理してみようと思います。

想定する機能・役割について

基本的には、M&A取引の入口から出口までの一連を適切に取り仕切る専門知識と経験が求められます。ただし、法律や会計、税務の専門家ではないので、該当する専門領域における最終判断までを求められるものではありません。それでも、M&A実行に必要となる法律や会計、税務の専門知識をそれなりに備えていないと、全体を取り仕切るには力不足となる場合があります。例えがあまり適切でないかもしれませんが、工事現場における現場監督のようなものであり、設計図面をもとに各施工担当者に指示をして、納期管理と品質管理を行いつつ、誰も怪我することなく、予算も超過させることなく工事を完了させるイメージと被るものでしょう。

ただし、M&Aの企画立案(=設計図面を描く)部分において、ターゲット企業の選定ですとか、実施する手法の選択などについては自身が主導的に判断し実行する事が求められます。また、バリュエーションの側面においても、売却取引であればクライアントの正しい価値を測定し、また買収取引であればターゲット企業等の正しい価値を測定する一義的な責任があると考えます。

マーケティングやソーシング機能については、案件の性格によって、最優先に必要と位置づけられる場合もありますし、逆に不要とされる場合もあります。例えば、企業グループにおける組織再編を目論む場合には、既に再編対象となるグループ企業の特定はクライアント側で実施済みとなっている事が多く、そういったケースにおいては、最適なストラクチャーを用いて、第三者(部外者)に当該取引の妥当性や合理性を説明しうる評価や比率を提供することに最大の付加価値が求められます。

逆に、事業再編にて特定事業を売却する場合、より有利な経済条件を取得するために「入札」手法を採用するケースでは、適切な候補先を募るマーケティング能力に対するクライアントの期待値は高くなります。

いずれにしても、財務アドバイザーはM&A取引に対する経験値が高いことが望ましく、単純な株式譲渡のみならず、合併、株式交換、営業譲渡、あるいはTOB(株式公開買付け)を伴う取引、更には買収ファイナンスを伴う入札取引、等々、ありとあらゆるM&A事例を経験すべきであります。このような取引事例を通じて蓄積したノウハウが、法律や会計、税務といった専門分野の知識と融合させることで、クライアントに対してベストなアドバイスを提供できる源泉になるといえます。

なお、昨今の証券不祥事などに鑑みても、インサイダー問題ですとか、有価証券の募集勧誘規制への抵触といった、金融証券取引法上の規制や取り扱いを熟知してないと、アドバイザーの職務における品質管理が不十分となる懸念があります。

それぞれの財務アドバイザーの特徴について

この点は、財務アドバイザーの帰属組織、あるいは出身母体が何であるかにより大きく異なります。

1.投資銀行系のアドバイザー

いわゆるInvestment bankerと呼ばれる立場です。 国内系投資銀行と外資系投資銀行では、業務スタイルに大きな違いがありますが、いずれにしても証券会社というインフラをベースに財務アドバイザーとしての経験値を高めていますから、いわゆる資本市場(キャピタル・マーケット)周りの取引は基本的に十分熟知しています。このため、上場会社の絡むM&A取引においては、提供するサービスという面においては強みを発揮します。

2.銀行系のアドバイザー

メガバンクなどでは、貸出先顧客の様々なニーズや情報を抱えていますので、その中からM&A取引に関連するニーズを集めて、銀行内の専門部署あるいは系列証券子会社のM&A部門に業務を委託することになります。メガバンクにおいては、すでに投資銀行と同程度の証券関連サービスを提供しうるインフラを備えていますから、アドバイザリー業務の守備範囲という面では遜色ないレベルにあるといえます。

しかしながら、プロフェッショナルの多くがもともとの銀行出身者であるケースが多く、そのせいか、債権者的感覚(=ダウンサイド・リスクに対するヘッジを強調する)で取引をまとめる意向が強い部分があります。また、キャピタル・マーケットを利用した取引への経験値が低い場合、ファイナンスを絡めたM&A取引に関するアドバイスが不十分となることもあります。

3.会計事務所系のアドバイザー

大手監査法人においてFAS部門などの呼称で財務アドバイスを行っています。監査クライアントに対する独立性の観点から、提供するサービスの制約が生じたり、利害相反から財務アドバイス契約を締結できないケースも生じますが、いわゆる会計デューデリジェンスであるとか、バリュエーションといった専門分野における充実度は高いでしょう。反面、証券インフラであるとか、融資機能を備えていないため、M&A取引の全体を仕切る体制としての力不足は否めません。

プロフェッショナルの多くが公認会計士の有資格者なので、会計や税務面での専門サービスを同時に提供することが出来るメリットもあります。しかしながら、マーケティングやソーシングといった、案件具体化に求められるリレーションシップやカバレッジ体制が充実していないため、案件のオリジネーション機能は投資銀行や銀行と比較すると大きく劣後しています。

4.独立系のアドバイザー(ブティックM&Aハウス)

上記、投資銀行、メガバンク、会計事務所などの出身者が設立したものを総称しています。メンバー構成の出身母体が何であるかにより、アドバイザリースタイルが異なるのが特徴といえます。基本的に、M&A取引に関する経験値が豊富なメンバーが揃っていることから、案件取り組みに対する柔軟性は高く、また、トラックレコードを確認することで、アドバイスに関する品質もある程度検証することが可能です。

特定の企業や業界とのリレーションが強い(=アドバイザーの属人的関係によるところが大きい)などの特徴も見られますから、リピート・オーダーが入るケースも多いようです。

5.その他(”ブローカー”)

ここでは上記1-4のカテゴリーに該当しないものを総称しています。残念ながらアドバイスにおける品質のバラツキが多く、個人の方でも非常に優秀で素晴らしいアドバイスを行うケースもありますが、逆に、モラルや専門知識水準が低く、到底アドバイザーと位置づけられないものも見られます。とりわけ、リレーションシップを売りにする自称”アドバイザー”においては、案件情報のみが唯一の提供サービスである場合が多く、ブローカーとして機能している場合が多いといえます。ブローカーにおいては、直接クライアントと接して得た一次情報を提供するケースもありますが、二次情報(=間接的に得た案件情報)あるいは想定案件(=売却可能性を想定したもの)などを提供するケースもあります。

種々雑多なM&A情報を受け入れつつも、自身の目で情報の精度を見極められる企業にとっては、M&Aの初期検討におけるマーケティングを効率化することが出来るため、場合によっては非常に有効なこともあります。


簡単な整理を行いましたが、上記区分が必ずしも正しいとは言い切れません。

いずれにしましても、皆様のM&Aに対する取り組み方、外部関係者との接し方などにより最適な財務アドバイザーの選択は異なってきます。従いまして、上記はあくまで参考情報としてご理解いただきますようお願いします。

 以上

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